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地域分析研究会 研究紀要 「社会情報研究」

第10号 (2012年12月29日)  目次と概要

(研究論文)

サービス・ドミナント・ロジックの理論化へ向けての一考察

藤岡芳郎・山口隆久

要旨

マーケティング研究では「価値共創」に関する議論が活発におこなわれている。2004年にVargo&LuschがJournal of Marketing 誌において提示したサービス・ドミナント・ロジックの基本概念も価値共創である。サービス・ドミナント・ロジックは「文脈価値」を決定するのは消費者、顧客であり、企業、供給者は支援をする立場であると位置づける。この立場では、従来の企業が決めた価値を製品に埋め込ませて顧客に届けることを意味する使用価値と文脈価値の用語を明確に区別する。サービス・ドミナント・ロジックの提示する文脈価値は顧客と企業が相互作用して顧客起点で生まれる価値を指す。そして、志向論(market to)と起点論(market with)を意識して区別している。しかし、価値共創概念は、研究者によって定義が違い、曖昧さがある。そこで本稿は、価値共創の定義をサービス・ドミナント・ロジックにもとづきおこない、志向論と起点論の違いについて事例を用いて検討する。

キーワード:サービス・ドミナント・ロジック 価値共創 文脈価値 志向論 起点論 相互作用 二元論 サーバント・リーダーシップ

(研究論文)

製品開発プロセスにおけるアーキテクチャと情報の粘着性の対応関係

中村友哉・山口隆久

要旨

本稿では、ユーザーイノベーションの発生原理を説明する情報の粘着性仮説と、工学系のアーキテクチャ論が提示したインテグラル型、モジュラー型のイノベーションプロセスとの関係性を考察する。
両概念の関連性についてはこれまで明示的な議論がなされてこなかったが、ユーザーイノベーションの分析概念をよりマネジリアルな指標に落とし込むためには、製品開発論との接点を考察することが必要となる。その際にカギとなるのが本稿で論じる製品アーキテクチャである。
本稿では、アーキテクチャのタイプと当該イノベーションに必要となる粘着情報の状態には対応関係があるとの仮説を提示する。なお、当該仮説の妥当性検証については今後の課題とし、引き続き検討を続けていきたい。

キーワード:情報の粘着性、製品アーキテクチャ、ユーザーイノベーション、問題解決活動

 

(研究論文)

NIEがもたらす社会の関心度~実践・非実践校における調査からの考察~

片山浩子・木村邦彦

要旨

インターネットなどの普及に伴い、現代では活字離れや読解力の低下が問題視されている。読解力の低下が問題となったのは、OECD が15歳を対象に行う学習到達度調査(PISA)結果「読解力」項目が、2000年は2位であったの対し、2003年には14位と低下したことによる。打開策として、NIE が注目されている。NIE とは学校教育に新聞を持ち込み利用することで、「読解力の向上」を図ることを目的にしている。本研究では岡山県NIE 推進協議会に協力して頂き、NIE 実践校と非実践校で児童、生徒に閲読習慣に差があるのか、NIE を実践することで閲読習慣が身につくのか、に焦点をあて、閲読習慣が身につくことで社会に関心をもち、ひいては読解力向上につながっていくのかについて追究したものである。
今回はNIE 実践校と非実践校にアンケートを行い、閲読率と閲読時間、閲読紙面の調査を行った。閲読紙面については、NIE を実践することで社会への関心が向上するのかを調査するため、政治、社会、経済、地域ニュースに焦点を置いて関心度をまとめた。
調査ではNIE を実践することで、閲読率、閲読時間ともに向上する傾向が見られる。小学生については特に閲読時間の向上が顕著である。また、閲読紙面についてはNIE を実践することで政治、社会、経済、地域ニュース各面ともに閲読率が向上していた。

(研究論文)

曹操政権と名士の関係に関する一考察

熊代 裕

要旨

後漢末の「名士」は儒教倫理に基づいて行動をする存在であり、そのため皇帝位簒奪を狙うなど非儒教的である曹操とは対立し、曹操政権において名士は曹操によって抑圧されていたと従来考えられてきた。
しかし、曹操の名士抑圧の根拠となる三つの事例とされる荀の死、求賢令、文学の宣揚を調べると、いずれの事例においても問題が残され、また求賢令や文学の宣揚によってむしろ利益を得ている名士が複数存在しており、曹操の抑圧政策と一概に言いきることはできないと思われた。
そこで、両者の関係について改めて考察するため、名士の曹操政権への加入に着目すると、名士は曹操政権が戦に勝利して領土を広げるなどの成功を収めるとそれに合わせて政権に加入していたことがわかった。逆に、赤壁の戦い以後は曹操政権への名士の加入数が激減しているのに対し、劉備政権への加入は増加していた。そして、曹操政権への名士の加入が激減した時期に曹操政権の名士達は曹操に皇帝就任を求め始めたのである。このような名士の行動からは、名士がそれぞれの政権内での栄達を強く望んでいるという一面を見ることができた。他方、曹操自身には皇帝位簒奪への強い意思は見られず、むしろ否定している記述が複数見られた。このことから考えれば、曹操と名士が皇帝位簒奪をめぐって儒教倫理に基づいて対立していたとは断言できないと思われた。
以上のことから考えれば、曹操政権では一般に言われているように、漢魏革命をめぐって曹操と名士が対立していた政権ではなく、両者は儒教理念を前提としつつも、利害関係によって結ばれていたと考えられるのである。

キーワード:曹操の名士抑圧策、利害関係、皇位簒奪意思

(研究論文)

カンボジア・メコン河支流沿いにおける絹織物生産と地域社会
-スロック・チョムカーとスロック・スラエの関係を中心に-

朝日由実子

要旨

カンボジアの農村地域に関する研究は、1970年のクーデタに始まる戦乱の影響で、1990年代半ばまで実地調査をすることが困難であった。ようやく開始された研究は、カンボジア全土の耕作地の約8割を占める「スロック・スラエ」と呼ばれる稲作村を農村社会の典型例とするものが多かった。一方、「スロック・チョムカー」と呼ばれる主に河岸にある畑作村についての関心は低かった。
本稿では、メコン河支流沿いのスロック・チョムカー地域にあるプレイ・ヴェーン州北部シトー・コンダール郡P村における絹織物生産の分業化を事例に、スロック・チョムカーとスロック・スラエとの社会関係について、検討することを目的とする。
初めにスロック・チョムカーとしての村落社会の特質を、調査村であるP村の状況から素描し、第二に調査村と特に絹絣織物生産工程の一部(「括り」の作業)の業務委託を通じて近年結び付きの強い、同じシトー・コンダール郡内のスロック・スラエ地域にあるC村を取り上げ、両地域間の婚姻関係および絹織物生産における雇用=被雇用関係について具体的に検討し、カンボジア農村社会間の地域性の違いとその関係性について考察を行う。

キーワード:スロック・チョムカー、スロック・スラエ、絹織物生産、分業、カンボジア

(研究ノート)

新『新しい歴史教科書』・『新しい日本の歴史』における修正要求箇所への対応について

宮崎由幹徳

要旨

2001(平成13)年、韓・中両政府は、偏向教科書として論争を巻き起こしていた『新しい歴史教科書』を含む日本の検定済み中学校歴史教科書について、内容の訂正を日本政府と各教科書発行会社に申し入れた。その後、当該教科書の内容の一部が修正され、採択も終了。政府間で協議の合意がなされたこともあり、論争は縮小した。
このことについて筆者は修士論文で、当該教科書を対象に、問題とされた箇所の当時における学会での研究動向との比較を行い、記載に問題がないとはいえない箇所が複数存在する他、1箇所、記載に誤りが見られるという結論が得られた。
その後も、『新しい歴史教科書』が改訂を重ねる度に国内外で賛否両論の論争が巻き起こっていることから、本論では、その後の当該教科書およびその流れを汲む『新しい日本の歴史』における記述についてとり上げることにした。
本論では、韓国政府が修正を求めた部分について、ひとまず、4箇所をとり上げ、日・韓学会での研究成果との比較を試みながら考察を行った。4箇所の記述について、韓国政府が修正を求める根拠とした「任那日本府」説に加え、修正が求められた4世紀後半の東アジアの国際関係を記した「広開土王碑」に関する学会動向等との検証、分析を行った結果、両教科書とも日・韓学会での研究成果を踏まえた記述であるといえるものであると結論付けられた。一方で、2001(平成13)年の論争以降の学会動向に変化がない場合にも、教科書側で表現を変え、記述を削除する等している部分が見られる他、学会での研究成果から逸脱したものではないにせよ、昨今、朝鮮半島南部が倭に支配されていたかのような印象を払拭するような研究成果も生まれている中で、日韓間に上下関係が存在したかのように受け取れる表現を用いている実態も浮かび上がってきた。今後こうした箇所への検証、分析も合わせ、残りの箇所について引き続き考察を行いたい。

キーワード:歴史教科書問題/『新しい歴史教科書』/『新しい日本の歴史』

(調査報告)

京都祇園祭山鉾巡行参加記(2)-保昌山2012年-

志野敏夫

(調査報告)

ラオス南部における焼き締め陶器製作及び土器製作の展開
-土器様式及び技術様式の地域間交流関係の整理-

徳澤啓一・Sureeratana BUBPHA

(調査報告)

中国雲南省-ミャンマー国境地域における伝統的土器製作
-西芒巷寨及び福貢加車寨における中国領内の現地調査報告を中心として-

顴澤啓一・片山浩子・張 雪

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