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2006/02/19

第6回

突然ですが,旅行に行きましょう!

尾 崎 陽 一

(岡山県岡山市出身,2004年度入学)

 突然ですが,旅行に行きましょう。

 友達や家族など,複数人で行くのも,楽しみが広がって悪くないのですが,今回は特に一人旅をお勧めしたいと思います。慣れないうちは,行き当たりばったりではなく,ちゃんと予約を取る方が無難でしょう。とは言うものの,すべてを自分でやらなければならないとなると,負担に思う人もいるかもしれません。実際,宿を決め,交通手段を決め,それに応じて予定を決め,さらには実行する必要があります。僕は去年の夏に熊野に行ってきました。道に迷って5キロ歩くことになろうと,宿のそばに何の店もなかろうと,誰のせいでもなく,自分以外に責める人もいません。一時期頻繁に耳にした,まさに自己責任です。

 しかし,悪いことばかりではありません。長時間乗り物に乗っている時に,友達としゃべっているだけでは味わえないであろう景色を楽しんだり,ご当地ミステリーなどを読んで旅行情報誌には載っていない歴史的な知識や,観光名所の看板には書いていない裏事情を仕入れて,ここがあの……と感心したり,地元の人とコミュニケーションをとったりと,一人ならではの楽しみ方もできます。時間が許せば,好きなところに好きなだけいることも可能です。

上にあげたようなメリットも個人的には相当大きいのですが,最大のメリットは「自信がつく」ことでしょう。自分で予定を立てた旅行というのは,多少の誤差があっても,突発的な事故でもない限り,最終的には自分で思い描いた通りの結果になるものです。それにより,自分一人でも意外に何とかなるものだ,という自信に繋がります。海外に行って英語しか使わなければ,自分は英語が理解できるほうなんだと感じ,自信がつくと語っていた教授もいますが,まずは手近な所で慣れておこう,といったところです。とにかく大事なのは,企画し,実行に移し,結果を出す。これを実現できるか否かがポイントだと思います。規模やリスクの違いはありますが,これは就職してからこそ必要になってくる力だと言えるでしょう。金銭的にも時間的にも融通の効く大学生だからこそ,そういった能力を養う意味をこめて,旅行に行くことをお勧めします。


旅行体験記

・一日目 昼前に岡山駅を高速バスで出発して大阪へ,さらに特急で紀伊勝浦まで。着いたころには日が沈んで,辺りは暗くなっていました。宿に荷物を置いたら,さっそく食事に。旅行なのだから,ご当地の料理を食べないともったいない! そんなわけでチャレンジしてみたのは,くじら丼とイルカの刺身。 (残念ながら写真はありません) ……味についてはご想像にお任せします。ただ,非常に生臭かったです。 そそくさと宿に引き上げ,就寝しようとしました。 が,さすがは安い民宿。おそらく布団を干してすらいないのでしょう。 そこはかとなく,ならまだいいのですが,吐き気がするほど酸いにおいがしました。 とてもじゃありませんが,寝ることなんて出来ません。 夏場でしたから,仕方なく,布団をどけて畳で眠りました。

・二日目 早朝起床。体が痛いのは当然ですが。 朝食を事前に買っておいたパンで済ませ,宿を後にしました。 勝浦駅からバスで那智大社へ。 途中のバス停に杖が入った箱を置いてあり,それを持って熊野古道を歩くことも可能だと,運転手の方が説明していました。 滝前で下車。那智大社に行く前に,「那智の大滝」に参拝です。滝自体が神様という何とも日本的な滝です。 神武天皇がこの滝を神としてまつり,八咫烏が道案内をしてくれた云々。 老人会らしきグループのガイドさんの説明を盗み聞き。飛沫を浴びると,長生きできるとかで,さらに滝近くの踊り場に行く人が続出しました。 若い人間より,よほどパワフルな人が多いです。 しばらく敬虔な気持ちになりながら滝を眺め,熊野那智大社へ。 坂を少し上ると,そこには石段が。その数,473段。 残暑がきつく,所々にある土産物屋を覗きながらとは言え,ハードでした。 登りきって参拝したものの,滝を見た満足感からか,先ほどの石段のせいか,どうでもいい気分でした。 すこし行った先から眺める滝はまた,何ともいえない感慨を呼び起こしましたが。

一旦駅まで戻り,熊野速玉大社に再びバスで。 滝を見てしまったせいでしょう。失礼な話ですが,速玉大社は何とも貧相に思えました。ただ,樹齢1000年(!)と言われる梛(なぎ)の大樹には圧倒されるものがありました。 そして何よりも興味が沸いたのが,天照大神を岩戸から引きずり出した手力男命をまつった手力男神社や,神武天皇を大和まで導いた八咫烏の八咫烏神社です。八咫烏はサッカー日本代表のシンボルとしても知られています。

さらにバスに揺られ,着いた先は熊野三山のラスト熊野本宮大社です。 本来はこの回り方は逆順らしいのですが,交通の関係で仕方ありませんでした。 多少手前でバスを降り,日本屈指の大きさの鳥居を持つ大斎原へ。 昔は大斎原に本宮大社があったのですが,洪水で流され,現在の山の上に流出しなかった部分を遷したそうです。

さて,本宮大社ですが,ここで再び石段が登場します。もっとも,129段と,那智大社に比べかわいいものでした。 一通り参拝し終わり,「熊野古道を歩く」という三山参拝とあわせて,もう一つの目的を実現させることにします。

正直,なめていました。 確かにガイドブックには中級コースと書いてありましたが,所詮2kmと高をくくっていました。 残暑が厳しいのは仕方ないにしても,蚊や蜂が飛び回り,うっそうとした木々が光をさえぎり,苔生した地面はつるつるすべる,といった有様です。

そして何よりも,誰もいないのです。人影どころか,話し声すらありません。話し声がして,人がいない方が怖いですが。 時折聞こえるのは,自動車が走る音と鳥の鳴き声程度でした。 再度言います。なめていました。 しかし,平安時代などは京都から何百人も引き連れて,参拝していたわけです。後白河上皇にいたっては三十五回近く行ったとか。本人は歩いてないのでしょうから,従者にとってはたまらなかったでしょう。死者も多く出たことは容易く想像できます。 などと,当時は考える余裕すらありませんでした。 やったことは時間の計算と残りの距離の計算だけです。

とは言え,2kmは2kmです。 何とか山を下りきり,湯の峰温泉に到着しました。

さて,宿は,と地図を取り出し,立て看板と照らし合わせたところで,かなりの誤算があったことに気づきました。 ただ一言,遠い。 遠いといっても,直線距離にして3km程度ですが,いい加減歩きたくなくなっていました。 仕方ない,タクシーでもと思っても,そんなものは走っていません。 頼りになるのは,アバウトすぎる地図と生来の方向感覚,後は道路の標識です。 文字通りトンネルを抜けると,そこには川が広がっていました。 川湯温泉ですから,それでいいのですが。 正直,迷ったことも考えると,歩いた距離は5kmを越えているでしょう。 2日目の宿は,1日目の民宿とは違い,部屋も広く,布団もまともでした。 が,夕食も終え,くつろいでいた時です。 部屋の隅をカサカサと音をたてながら,黒い物体が走っていました。 言うまでもないでしょうが,Gのつく虫です。 散々な旅行だなと思いながら,速やかに退散願いました。

その後は特に何事もなく,三日目もバスと電車を乗り継いで帰っただけなので,省略させてもらいます。 今考えると,不満たらたらで,予定を決めていたものの,相当に行き当たりばったりな旅でしたが,悪いものではありませんでした。 いずれは,安い民宿ではなく,リッチな旅行をしてやろう,とたくらんでいます。

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