社会情報学科では、学生の「社会人基礎力」向上を目的として、2016年10月~2017年3月、岡山理科大学2016年度「教育改革推進補助事業」として、エブリイホーミイグループとのPBL(Problem-Based Learning;課題解決型授業)(以下、エブリイPBL)に取り組んだ。この取り組みの大きな目的は、企業から実社会に即した課題提供を受け、学生自らがチームで調査、検証、企画立案までを主体的に行うことで、「企画力」、「行動力」、「コミュニケーション力」の向上を図ることである。
なお、本年4月に社会情報学科から改組する経営学部経営学科では、このPBLを「イノベーション・ラボ」i と称し、経営学科を特徴づける実践型演習科目として実施する予定であり、そのモデル授業となるものである。
山陽新聞(2017年1月31日,地方経済面)に掲載された最終発表会の様子
エブリイPBLでは、「経営戦略」を受講する社会情報学科の2年~4年次生88名、および各グループの学生ファシリテーターとしての役を担う経営戦略を専攻する山口ゼミ生15名の計103名が学年の垣根を超えた混成チームを編成した。特に、3年と4年は自分が専攻するゼミ(経営学、経済学、法学、社会学、情報科学、歴史学など)に所属しており、それぞれの得意分野を持ち寄り課題解決に挑戦している。
このPBLの連携企業は、売上高666億円、従業員4000名 ii を誇る中国地区を代表する食の総合プロデュースグループ会社であり、(株)エブリイ、(株)ホーミーダイニングなど9社をグループ会社として持つ (株)エブリイホーミイホールディングスである(本社:福山市)。
持ち込まれた課題は、岡山市横井上にあるイズミヤ津高店跡地に2017年3月末に出店、オープンするGMS iii「エブリイOkanaka津高」が、地域社会との共創・共生を実現していくための店舗・サービスを企画開発することである。ゴールは企画だけではなく、新サービスとして、実際に開発、開始を目指すことである。
企画のポイントは、「エブリイOkanaka津高」のコンセプトをベース iv に 、地域社会との共創・共生に対応し、学生視点からの施設活性化が実現できること。また、(株)エブリイは、この「エブリイOkanaka津高」を、21世紀における地方の新しいLSC v という形態として、GMSの新業態、地域再生のモデル施設、ならびにSC vi でもGMSでもない、新しい業態の確立への足がかりにと考えている。
近々(3月末)にオープンが迫ったリアルなPBLだけに、課題、ニーズも少し複雑で、難易度も高く、エブリイ開発担当チームとの十分なコミュニケーションを通じて、課題やニーズを正しく把握することが肝要。市場調査やアンケート調査によるマーケティングデータによる裏付けも重要となる。
エブリイPBLの期間は、2016年10月から3月末オープンまでの6カ月で、全19回講義、3つのタームに分かれる。
第1タームは、10月、11月。計7回の経営戦略の理論学習、および流通業における事例学習である。理論学習は、本学担当教員による座学講義であり、事例学習は、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンや元東急電鉄のマーケティング担当部長を招聘して、SWOT分析など実際の経営戦略手法等を学んだ。
このPBLのメインとなる第2タームは、12月、1月。(株)ホーミーダイニングの岡崎真悟代表取締役社長、藤本真吾経営企画室長、(株)エブリイの柴田昇取締役支配人を中心としたエブリイホーミイグループの8名の方々に「エブリイ開発担当チーム」を組んでいただき、約12回にわたるエブリイPBLがスタートする。
学生の発表は、テーマは異なるが、中間発表的位置付けの第1回発表会(12月22日)と最終発表となる第2回発表会(1月30日)の計2回実施される。また、第2ターム12回の講義全てにおいて、エブリイ開発担当チームの方々が来学して対応していただき、エブリイの歴史と店舗・サービス企画開発ポリシーについての説明に始まり、グループディスカッションは、重要なファシリテーターとしての役割を担ってくれ、上手に学生を誘導してくれた。
第3タームは、2月、3月。これまでの計2回の発表で提案された企画の中から、エブリイ開発担当チームが選んだ企画を、発表したチームメンバーと「経営戦略ゼミ」(山口ゼミ)の3年次生10名の計20名が、その規格の具現化に向けて、現地店舗にて、エブリイ開発担当チームと一緒にサービス実施に取り組む。以上が今回のスケジュールである。
ターム2の実際を詳細に紹介する。
第1回中間発表に向けて、エブリイ開発担当チームから提示されたテーマは、以下の通りである。10チームが以下の4つのテーマから各チーム1つ選択して企画を行った。
学生は、それぞれ8名前後で10のグループに分かれ、自分たちが選んだテーマについて、エブリイ開発担当チームからレクチャーを受けて、活動をスタート。アイデア出しから仮設・検証に取り掛かった。実際の現場に行っての調査や消費者動向に関する先行研究、ソーシャルデータでの分析に加え、学内外でのアンケート調査を積極的に行うとともに、エブリイ開発担当チームとの議論を授業日に関係なく、時にはSNSを使って深めていった。
グループ討議を始めて約1カ月後の12月22日(木)、中間発表的位置付けの第1回目発表会が行われた。
この第1回の発表で、学生たちはサービス企画の難しさや自分たちの考えの甘さを痛感する。また、エブリイ開発担当チームによる審査、表彰も行われたが、審査の講評で、いい企画、ダメな企画、それをはっきり伝えられることにも学生は一様に驚いていた。いいものはいい、ダメなものはダメ。なぜ真剣に取り組まなかったのかを追求されたグループもあった。この発表会で自分たちの甘さや課題を明確にした学生たちは、これを機に目の色が変わった。
第2回最終発表に向けて、エブリイ開発担当チームから提示されたテーマは、以下の通りである。10チームが以下の6つのテーマから各チーム1つを選択して発表を行った。
以降、最終発表に向けてグループワークを加速していった。
1月30日(月)、最終発表会となる第2回では、エブリイ開発担当チーム8名に加え、岡山理科大学副学長、学部長等教員5名、SCコンサルタント代表取締役1名の計14名が審査員となり、10グループが最終プレゼンテーションに臨んだ。新聞社、テレビ局、雑誌等の取材も入り、130名定員の教室が満員状態で緊張感漂う中で発表会が始まった。
いずれのグループも学生らしい発想を盛り込み、SNSを用いた斬新な販促手法も提案。加えて、SWOT分析やVRIO分析、PEST分析等を用いた事業戦略や分析のビジネスフレームワークもきちんと組み込まれており、質の高いプレゼンテーションが繰り広げられた。関係者一同、第1回目のプレゼンテーションからの余りの進歩に驚き、学生たちのポテンシャルの高さを感じ取ることができた。
厳正なる審査の結果、最優秀賞は、フードコートのステージ企画運営案を企画した「チーム津高」が受賞した。
最優秀賞 チーム津高
『フードコートステージの有効活用について ~エブリイサプライズ~』
中間発表で悔しい思いをしたのが逆にモチベーションをあげ成長。
半数以上が女性、留学生もいれば学生起業家も。さまざまな意見がぶつかり合ったのがよい方向に。
今回の仕掛け人である社会情報学科の山口隆久教授は、「第1回目の中間発表と比較して、パワーポイントの出来やプレゼンテーション能力だけでなく、取り組み方そのものが格段に進歩、向上しており、大変驚いている。密度の濃い3カ月間のエブリイさんとの連携、取り組みで力強く成長してくれたことを自慢に思います。ぜひ、この産学連携によるプロジェクトをみなさんの将来にいかしてほしいし、次につなげてもらえれば嬉しいと思います。」とエブリイPBLを総括する。
なお、4階フリースペース企画で第2位にあたる優秀賞を受賞した「チーム関ジャニ∞」の「4階における施設全体の集客を考えた具体的な企画 1,000坪のエブリイ農園」は、実際のサービス化に採用された。2月、3月の第3タームで、山口ゼミにより、サービス実施に向けた準備に入っている。まだまだエブリイPBLは続いている。
(株)エブリイの岡崎浩樹代表取締役社長より,次のようなご講評をいただきました。
「思っていた以上にユニークな意見が集まり、店舗内では難しい農場も周辺農家と提携することで実現できそうです。今回のエブリイPBLを通して、学生さんの意見から、逆に私達が勉強させていただきました。是非、今後の店舗づくりにいかしたい。そして、今後も学生のユニークなアイデアを積極的に店舗づくりに取り入れ、挑戦できる企業集団になりたいと思っています。」
大変温かいご講評、ありがとうございました。