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社会情報学科・社会情報専攻 研究紀要 「社会情報研究」

第6号 (2008年9月28日)  目次と概要

(総説)

環境政策-その概念の形成と構成要素

井上堅太郎・待井健仁・安倍裕樹・羅勝元

要旨

  1969年制定のアメリカの国家環境政策法は、人間とその環境の間に生産的で快適な調和を助長する国家的政策を宣言することなどを目的に制定する、とした。日本では1970年代後半頃に、その定義はなされずに環境白書などにおいて「環境政策」が使われるようになった。その後、これまでに環境政策の範囲について、変遷を経て今日では公害対策、環境の快適性の確保・創造、廃棄物処理・処分、循環型社会形成、地球環境保全などの範囲と考えられている。環境政策の担い手について、1970年代頃までは国、地方自治体を主とする考えが強かったが、やがて、住民、事業者、NGO・NPOを主体として重視するようになった。政策の手法について、公害対策に有効であった規制的な手法に加えて、近年は経済的な手法、自主的な取組を重要な手法と見るようになった。その基本理念については持続可能な開発とする考え方が定着してきている。日本では「環境政策」は法律などに定義されていないが、基本理念、基本理念を補完する諸原則、対象とする環境の範囲、環境の調査・監視、政策の手法、政策の担い手である主体などの諸要素よって構成される概念としてとらえることができるものになっていると考える。

(研究論文)

中国吉林省の環境政策形成過程及び地方の役割に関する研究
-大気保全対策を中心に

待井健仁・包茂宏・井上堅太郎・泉俊弘

要旨

 中国吉林省における環境政策形成過程及び地方の役割に関して,大気保全対策を中心に研究した。吉林省では,1970年代以来さまざまな環境政策がとられてきたが,全般的に見れば,都市自動車排ガス汚染防治条例等の一部の施策を除けば,これまでの吉林省の環境政策は国の環境保護会議,立法措置及び行政組織整備等にほぼ沿っており,省独自の施策はあまり認められない。しかし,吉林省において生態省建設という新しい目標を持ったことについては今後の取組みが注目される。吉林省が生態省建設という「持続可能な発展」に符合する環境政策の長期的なビジョンを掲げていること,また,海南省及び黒龍江省とともに他の省に先行して取り組もうとしていることは注目されることである。SO2,ばいじんの環境効率性(排出量/GDP)は2004年までは向上してきたが,2005年に低下傾向に転じている。SO2排出量に関して2005年に前年に比べて約10万トンも増加していることが環境効率性の低下をもたらした要因とも考えられるが,エネルギー消費量の増加に伴い今後もSO2排出量はさらに増加し続けると思われ,環境効率性もさらに低下することが考えられる。一方で,中国全体での環境効率性を見てみると,SO2及びばいじんともに増加し続けており,近年においても低下傾向は見られない。吉林省においては,今後は地方政府として法律等で認められている裁量を有効に活用し,これまでよりも一歩踏み込んだ効果的な対策を検討することによって,吉林省の実情に見合ったSO2及びばいじんの排出量削減対策を講じていくことが必要と考えられる。

(研究ノート)

戦後日本の「社会開発」概念をめぐって

石水和貴・泉 俊弘

要旨

 1960年代に国連は後進国開発の主要手段の一つとして「社会開発」を提唱した。日本には、1962年に「社会開発」概念が導入されたが、その意味・内容等をめぐって、様々な議論があった。1964年の総理大臣所信表明演説は社会開発の推進に言及し、国民生活向上を社会開発の主要目標とした。しかし、日本の経済・社会が先進国の要件を備えるようになるにつれて、社会開発とは次元を異にする各種の社会福祉的施策が実施されるという方向へと向かい、「社会開発」という用語も社会資本整備の中に吸収されていった。

(研究ノート)

日本の情報通信政策と情報通信市場への影響

板野敬吾

要旨

 現在の日本における情報通信分野は、新規サービスの導入、サービスの高度化・多様化、および料金の低廉化等の面で大きく変化した。
本稿では、このような顕著な発展を遂げつつある情報通信サービスの利用状況の変化を捉え、その背景にある政策を検証してみる。その上で、情報通信分野を、主に企業活動等の面から捉えてみた。料金の変動および提供サービスの盛衰等について検証し、さらに通信をトラフィック面からみることで、日本の情報通信分野における変化を政府の政策の変遷を対比させていった。また、現在の情報通信政策に関する展望を概説し、その展望に向けた現状における課題点を検討してみた。

(調査報告)

ベトナム中部における伝統的土器制作と陶器生産
-パレイ・リゴク村及びイ・チュロク村の事例を中心に

徳澤啓一・平野裕子

要旨

 近年、ベトナム社会主義共和国は、急激な経済発展に伴って、生活様式の現代化が進んでいる。少数民族の生活様式、そして、伝統的土器製作は、急速な変容を遂げつつある。とくに、伝統的土器は、安価な工業製品と代替されつつあり、日常什器としての存続が困難となっている。都市生活者や観光客に訴求する現代的器種の案出、陶器生産への移行等が目論まれている。伝統的土器製作の生産様式及び製作技術の今日的形態を取りまとめた。

(調査報告)

北インドにおける生活様式と伝統的土器
-ウッタル・ブラーデッシュ州の農村部と都市部の土器利用を中心にして

徳澤啓一・平野裕子

要旨

 西南中国・東南アジア大陸部と比較することを目的として、南アジア、とくに、インド亜大陸における伝統的土器製作の現地調査に着手した。インド共和国では、水道等の生活インフラが整備されておらず、カーストによる職能身分制が根強いこともあり、多数の伝統的土器製作が残置されている。各地域における生産様式・製作技術を明らかにするにあたって、伝統的土器の今日的利用について、農村部・都市部における現状を取りまとめた。

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