研究紹介

  1. ホーム >
  2. 研究紹介 >
  3. 社会情報研究 >
  4. 「社会情報研究」-第9号

社会情報学科・社会情報専攻 研究紀要 「社会情報研究」

第9号 (2011年9月30日)  目次と概要

(論文)

マーケティングにおける顧客との関係性概念の変遷についての考察

藤岡芳郎・山口隆久

要旨

Vargo&Lusch〔2004〕が、Journal of Marketingにサービス・ドミナント・ロジックという新しい考え方を提示してから、マーケティング研究者の中で議論が進んでいる。本稿は、この考え方がマーケティング研究の中の関係性に関するこれまでの研究に対して、どのような影響を与えることになるのかについて考察する。
最初にマネジリアル・マーケティングやマーケティング・マネジメントの伝統的マーケティングが顧客をどのように捉えていたのかについて検討する。次に、20世紀後半に研究が進展した関係性マーケティングなどの関係性概念に主眼を置く研究の系譜を考察する。
関係性マーケティングの源流には、早くから北欧で研究が開始されたサービス・マーケティングと産業財マーケティングの研究がある。そして、北欧で発展した研究は、サービス・ドミナント・ロジックの考え方に多くの影響を与えている。
関係性についての研究は、北欧から遅れて1980年頃から北米で本格的に研究が開始され、北米、北欧の研究者たちの共同研究や交流も進められて今日に至っている。本稿では、伝統的マーケティングや関係性マーケティングの関係性概念を考察した後に、サービス・ドミナント・ロジックが提示する考え方が、これらの研究とどのように違うのか概観する。そして、この考え方がマーケティングにおける関係性概念に与える貢献と課題について検討する。

キーワード:関係性、グッズ・ドミナント・ロジック、サービス・ドミナント・ロジック、価値共創、文脈価値、ネットワーク

(論文)

地域プロスポーツクラブとサービス・マーケティング適応のための分析枠組み

三好純矢・山口隆久

要旨

日本の地域プロスポーツクラブにおけるマーケティングの成功事例として、Jリーグのアルビレックス新潟や、プロ野球の北海道日本ハムファイターズなどが挙げられる。しかし、まだ特定のクラブにおける限定的なもので、プロスポーツ産業の極一部分にすぎない。日本の地域プロスポーツクラブ全体としては、アメリカなどのそれと比較して決して良好な経営状態にあるとはいえない。
そこで、本稿では、スポーツマーケティング研究の問題点を指摘すると同時に、我が国の地域プロスポーツクラブが現状を打破し更なる発展を遂げるべく、マーケティングの観点からひとつの提言を行っていく。地域プロスポーツクラブのマーケティング課題を浮き彫りにするため、スポーツマーケティングの先行研究レビューを行った。そこでは、これまで行われてきたスポーツマーケティング研究の多くが、既存のマーケティング理論のフレームワークを用いており、すなわち伝統的マーケティングの延長上に成り立っているということが明白となった。
伝統的な4Pマーケティングではなく、サービス・マーケティングの視点でスポーツを捉えると、スポーツマーケティング分野の多くは、コア・プロダクトがサービスである。したがって、スポーツ・エンカウンターにおいて、サービスの提供者と消費者は接している場合が多い。これらのことから、本稿では、スポーツ・エンカウンターにおける相互作用の枠組みを提示した。

キーワード:地域プロスポーツクラブ、地域ビジネス、スポーツマーケティング、サービス・マーケティング、価値創造

 

(論文)

水島開発に伴う二酸化硫黄大気汚染および汚染対策とその主体について

前田 泉・井上堅太郎

要旨

水島開発は、全国21指定地区で拠点開発による重化学工業化が推進された高度経済成長期における開発の一つである。1950年代後半に開発が始まり、石油精製、石油化学、鉄鋼、電力などの企業が立地し、1970年代に日本を代表する重化学工業基地として水島臨海工業地帯が形成された。誘致企業の一部施設が操業を開始すると、農水産被害等の公害が発生し、やがて大気汚染による健康被害が発生した。住民、特に健康被害を受けた被害者、農産物被害を受けた関係者は、被害対策、公害対策を求めた。燃料消費量の急増に伴い、硫黄酸化物の排出量は1971年頃、最も多くなった。二酸化硫黄汚染は1969年度に最も高濃度となり、11か所の大気汚染測定局のうち3局で年平均値0.050ppmを超えた。1966~1968年に通産省(当時)、岡山県、倉敷市が硫黄酸化物対策を行なったが抜本的な汚染改善に至らなかった。1973年に二酸化硫黄環境基準が閣議了解された。岡山県、倉敷市はこれを達成するために、企業との間で硫黄酸化物排出総量を2,200Nm3/Hとする約束をとりつけ、1977年に達成した。この達成年は法による総量規制の施行(1978年)に先駆けるものであった。二酸化硫黄による大気汚染は1970年代には改善が進み、1982年に全測定局で環境基準に適合した。こうした経緯において、工業開発初期に発生した公害に強く反発して対策を求めた住民、1973年に現在の二酸化硫黄環境基準を定めた国、および環境基準を達成するために国に先行して総量規制を行い汚染改善を実現させた岡山県、倉敷市、さらに環境基準遵守のため硫黄酸化物排出総量抑制に努めた企業が、それぞれに役割を果たした。

キーワード:倉敷市、水島地域、地域開発、二酸化硫黄大気汚染、大気汚染対策

(研究ノート)

倉敷市における環境をめぐる住民運動・市民運動の経緯と課題について

井上堅太郎・前田泉・安部裕樹・羅勝元

要旨

倉敷市における環境をめぐる住民運動・市民運動について、その経緯とそれらが地域の環境保全に果たしてきた役割、全国的な動向から見た地域における特徴について研究した。水島開発当初の1950年代後半から全面操業に入る1980年頃までの間に、発生した公害に対して反射的に反対運動が行われたが、多くは被害補償的な対応と公害対策の拡充により沈静化した。1970年代頃から関心を持つ市民による自然環境保全に係る市民運動が行われるようになったが、それは市と市民・学識経験者の協働で進められてきた。1990年代半ば頃から温暖化対策等に取組む新しい市民運動が行われるようになった。公害健康被害を受けた人たちによる公害反対運動は被害救済・被害補償を求める住民運動を行い、1980〜1990年代には倉敷公害訴訟を争った。その和解後には市民運動とみることのできる活動を行うようになった。この地域の住民運動・市民運動はそれぞれに地域の環境保全対策に役割を果たした。それらには、全国的な動向に符合する側面と地域に特徴的な側面が見られた。

キーワード:水島、水島開発、住民運動、市民運動、環境、環境保全

(研究ノート)

カンボジアにおける手織物業の分布状況に関する一考察

朝日由実子

要旨

The aim of this paper is to present the distribution of the hand-weaving industry in Cambodia based on related previous studies and my field research. The hand-weaving industry has been one of the important cottage industries in rural areas in Cambodia, especially in the high-populated area in the central plain. Though, until now, few studies have been conducted on the weaving industry in Cambodia. Despite the interruption owing to the civil war (1970 to 1975) and Pol Pot era (1975 to 1979), the weaving activity has been gradually revived by villagers from early 1980s. Furthermore, foreign assistance agencies started to support the revival and promotion of the industry since mid-1990s.
In this paper, first, the general situation and previous studies of the industry are introduced. Second, for analyzing details of the distribution, I attempt to classify the hand-weaving areas into three categories, depending on the irgeographical locations and subjects, namely, highland area, plain area, and NGOs and private company’s operating area. Finally, by analyzing the specific characteristics of each area, I would like to consider the entire situation of the industry.

キーワード:カンボジア、手織物業、綿織、絹織、産地、分布、NGO

(調査報告)

祇園祭山鉾巡行参加記-保昌山2011年-

志野敏夫

(資料紹介)

王亜文著「雲南省における朴拉族(彝族支系)の伝統的土器製作技術」

徳澤啓一・熊代 裕

PAGE TOP