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社会情報学科・社会情報専攻 研究紀要 「社会情報研究」

第7号 (2009年10月4日)  目次と概要   [表紙]

(総説)

韓国における環境政策の形成と背景について

井上堅太郎・羅勝元・泉俊弘・待井健仁・安倍裕樹・前田泉

要旨

  先行研究では解明されていない韓国の環境政策の発展を促してきた内生的諸要因について解明を試みた。韓国の環境政策は、1997年にOECDによる環境政策レビューが発表された時点においては、先進国のレベルに達していたと見ることができ、また、1960年代以降、OECDレビューが発表されるまでの間の韓国の環境政策は4つの時期に区分して捉えることができる。第一から第四の各期にそれぞれに環境政策を発展させているが、その要因はそれぞれに異なるものと考えられる。第一期においては、開発独裁と呼ばれる時代にあったが、行政担当部署であった保健社会部が公害防止法の制定や施行を通じて重要な役割を果たしたものと考えられる。第二期においては、開発独裁体制が続く状態の中で、前の期と同様に行政部門が重要な役割を果たすのであるが、前期と異なるのは環境汚染の被害者が汚染原因者と考えられる発生源に対する行動を起こすような件数が増えたこと、知識人が社会に向けて意見を開示するようになったこと、マスコミ報道が一定の役割を果たしたこと、そして大統領年頭教書において環境問題が言及されるに至ったことである。第三期においては、行政、専門家、マスコミの役割に加えて、オリンピック開催により国際的に注目される中で、政権中枢が環境保全施策を容認あるいは進展させたものと考えられる。第三期から第四期への移行については、環境政策の分野においても、民主化が法制、行政、市民関与におけるより望ましいあり方に誘導し、加えて地方自治が確立し、先進国の環境政策の水準に至ったと考えられる。

キーワード:韓国 環境政策 地方自治 公害防止法 環境保全法 環境政策基本法

(総説)

日本の環境分野の技術協力について-協力に対する考え方の変遷・現状・課題-

安倍裕樹・井上堅太郎・千原大海・今井千郎

要旨

 日本の環境協力は1973年に途上国の行政官を研修員として受け入れた後、途上国への専門家派遣、開発調査、技術協力プロジェクトなどを実施してきているが、3つの時期に区分できる。第1は、日本の環境協力が始まってから技術協力プロジェクトなどの環境協力の実施手法を整えた環境基本法制定(1993)以前までの時期、第2は環境基本法制定後から1990年代末頃で、地球サミットにおいて環境ODAの拡充の方針の表明とその後の環境ODAの量的な急増を行った時期、第3は1990年代末以降で環境省や研究者などによる環境ODAのレビューが行なわれ、効果的な環境協力のあり方の議論がなされている時期である。第3の時期にある現在、研究者、政府、JICAなどは環境ODAの質の向上のために、総合的・包括的な協力を実施すべきことを指摘している。これらは、2002年の持続可能な開発のための環境保全イニシアティブなどに指摘されているものであるが、現在においても依然として課題とされているものである。また、1987年の「地球環境保全企画推進本部中間報告」において、日本の環境協力のあり方として「持続可能な発展」を目指すとの考え方が指摘され、その後、1993年制定の環境基本法、環境基本計画などにおいてもこの考え方が掲げられて今日に至っている。持続可能な発展への協力を、協力案件の形成、実施決定後の案件にどのように反映されていくかが課題である。

キーワード:環境協力、技術協力、環境基本法、政府開発援助大綱、持続可能な発展

(研究論文)

ベトナムの環境政策の形成過程-環境法制・環境行政を中心に-

田中基紀・西宮康二・安倍裕樹・待井健仁・井上堅太郎

要旨

 ベトナムの環境政策の形成過程について,国の法規制,行政組織を中心に研究し,主にベトナム戦争が終結した1975年以降に注目して,その内容や各時期の出来事,社会経済状況などから3つの時期(1960年頃~1990年頃,1990年頃~2002年頃,2002年頃以降)に区分できることを指摘した。ベトナムは,1986年にドイモイ政策を策定し,同政策導入後は年平均7%以上の高い経済成長を維持している。この経済成長とともに,ベトナムの環境汚染・環境問題が次第に顕在化し,大気汚染,水質汚濁,廃棄物処理等の問題に直面している。これらの問題に対応する環境政策として,1990年頃から環境法や環境行政組織などが整備されはじめ,包括的な政策がとられるようになり,2002年以降は環境行政組織の再編・強化,環境法の改正などの施策がとられている。また,「持続可能な開発」を環境政策の基本理念として位置づけていると見ることができる。一方,環境政策の課題として,「協働原則」1),「共生原則」2)などが環境法規制等に位置づけられていないこと,環境行政組織については,人員の確保及び質の向上,法施行上の矛盾点の改善などが必要である。またベトナムは,2020年までの「工業国入り」を目標にしており,工業化を推進し,経済発展を目指すにあたり,環境政策の要素のひとつとして「環境と経済の調和」を図ることが重要な課題となっている時期にある。

キーワード:ベトナム,環境政策,環境政策形成過程,持続可能な開発,ドイモイ政策

(研究論文)

地域再生政策とローカルガバナンスにおける日英比較に関する研究

金川幸司

要旨

 地域の衰退や都市内の格差の是正のために、地域再生政策に注目が集まっている。これは、ハードからソフト、省庁横断的取り組み、セクター横断的政策として捉えることが出来る。
本稿では、イギリスの現労働党政権の主要地域再生政策としての近隣再生事業に焦点を当て、コベントリー市の事例を紹介しながら、地域戦略パートナーシップと住民やNPOが政策に参加する仕組みとしてのコミュニティエンパワメント1)の枠組みを紹介する。さらに、我が国において、2005年に制定された地域再生法に基づいた事業について、その特徴と推進のためのガバナンス構造としての地域推進協議会について検討する。
最後に、これらの事例分析から明らかになった地域再生政策に関する日英の比較を試みる。そこでは、中央地方関係、省庁間の関係、事業の評価システム、中央の関与方法、パートナーシップによるガバナンス構造などに関する差異が明らかとなった。

キーワード:ガバナンス、パートナーシップ、ターゲット、衰退指標、コミュニティエンパワメント

(研究論文)

現代の地域政策概念をめぐる理論的一考察

泉 俊弘

要旨

 「現代」の地域政策はいかなる課題に取り組むものであるか。今日では、その内容についての議論が、原理論的な地域経済政策が射程とする内容を越えて展開されていると考えられる。「現代の地域政策」をめぐる諸議論に関する考察から得られた成果を評価しつつも、なお、経済政策としての本質規定を明確に意識しておくことの必要性について論理的に明らかにする。

キーワード:経済政策 地域経済 地域政策 サスティナビリティ 全国総合開発計画

(研究ノート)

1990年以降のエジプトの環境政策に関する一考察

安倍裕樹・千原大海・井上堅太郎

要旨

 エジプトの環境政策は1990年代以降に大きく進展している。エジプトは,2007年にエジプト・アラブ共和国憲法の改正を行い,環境に関する規定(第59条)を設けた。また,1994年に「エジプト環境法」を制定し,1982年制定の「ナイル川保護法」と合わせて基本的な環境汚染規制を整えた。環境行政組織について,1994年制定の「エジプト環境法」においてエジプト環境庁を環境行政執行機関と位置づけるとともに,エジプト環境庁の地方支所を工業地帯に設置することとした。この他に,エジプトは1992年と2002年に国家環境行動計画を策定したほか,2000年に都市廃棄物管理国家プログラムを策定している。これらの背景には,エジプトが海外ドナーの助言を全面的に受け入れてきたこと,そして,海外ドナーによる技術協力があったことが指摘できる。協力の成果である環境政策の基盤を適切に活用し,ドナーから自立することが重要課題である。 また,経済成長が続くものと予想されるので,汚染物質の排出量と汚染の動向に応じて必要な規制と規制の強化を行っていくことが今後の課題である。 そして,さらなる環境政策の発展には,国民の環境政策への関与の拡大,県レベルのEMUの環境行政能力の強化,企業による自主的な環境配慮の取組みの拡大が最も急がれる課題である。

キーワード:環境政策,エジプト環境法,エジプト環境行動計画,環境協力

(研究ノート)

岡山の出版と岡山文庫

真鍋瑞貴・木村邦彦

要旨

 岡山にはいま、刊行して45年と長く根づいている出版物「岡山文庫」がある。岡山で最初に出版を手掛けた吉田書店の流れをくむ日本文教出版社の発行である。活字文化の落ち込みが激しい現在においても定期的に刊行を続けるなど、異彩を放ち、注目を集めている出版物である。岡山の出版社には現在、他に教育出版大手であるベネッセコーポレーション、新聞社で出版を手掛けている山陽新聞社、創業15年の比較的新しい吉備人出版社がある。地方出版という側面から見ても、とり立てて多くもなく、少なくもないというのが、実情であろう。この地で、「岡山文庫」はしっかりと根づき、さらに生き続けようとしている。その根底にあるものは何なのか。研究では、出版社の活動を調査し、他の地方の歴史ある文庫本とも比較を試みた。さらに岡山における図書館の利用状況などから、本に対する県民性や風土のようなものの存在にも着目した。
本稿は、苦境が続く出版界の中で地方出版はどのようになっていくのか、をテーマにした研究の一項目として、「岡山の出版」について考察したものである。

キーワード:岡山文庫、日本文教出版社、地方出版、岡山県立図書館、岡山の風土

(研究ノート)

地域別価格の形成要因に関する一考察
- 岡山と大阪での家電製品の価格調査結果から -

水谷直樹

要旨

  大手外食チェーンが地域別価格を導入して以来、消費者にもその手法の存在が知られるようになった。外食チェーンの地域別価格では、岡山地区において大都市地区よりも低い価格が設定される傾向にある。そこで、外食チェーン以外の場合として、家電量販チェーンの価格設定を岡山地区と大都市地区とで調査比較した上で、地域によって販売価格が異なるメカニズムについて種々の可能性を考察した。販売価格の地域差が生じる要因の考察には主として数理モデルを用い、様々な業種および地域で再利用可能なモデルとした。また、店舗立地および顧客住居の空間的分布状況の地域による違いが、価格差を生む1つの原因となる可能性を示した。

キーワード:地域別価格、需要の価格弾力性、家電量販店、岡山市

(研究ノート)

ユビキタスネット社会に向けたICTの現状と課題

板野敬吾

要旨

  日本における情報通信市場は、昭和60年の自由化政策の導入以降、積極的に競争政策を推進し、インターネットや携帯電話サービス等が広く普及した。これらのサービスが浸透したことにより、電子商取引市場が拡大するとともに、電子化された音楽・映像ソフトのダウンロード等、新しいサービスが普及し、私たちの生活に変化がもたらされた。 本稿では、日本のデジタルコンテンツ市場の拡大に関し、このような変化をもたらした要因として、情報通信分野におけるインフラに着目し、情報通信基盤の高度化からの説明を試みた。

キーワード:インターネット、ブロードバンド、携帯インターネット、コンテンツ

(調査報告)

マレーシアの地理的表示法の紹介
―生産品のトレーサビィリティ(Traceability)の明確化―

坂部 望

要旨

 筆者は1995年以来、マレーシアの情報通信法制・情報法(Cyber Law)・知的財産法制の研究に関与し、1998年から現地駐在を経験し、当時のマハティール首相の首相府機関と密接な関係を持ち、情報関連立法の整備支援に従事した。当時としては、マレーシアの情報法等は、先進国にも存在しなかった広大な立法実験であったといえる。 筆者は現在も日本マレーシア協会(会長:平沼赳夫衆議院議員)の会員として、現地からの情報を収集し、斬新な法制度を紹介する研究活動を継続している。 今回取り上げたのは、同国の知的財産法制の一つである「地理的表示法(2001年施行)」を筆者が邦訳(法律文体形式で訳出)し、法文を紹介した。本来なら条文の逐条解説も行いたいところであるが、紙幅の都合もあり、別の機会で検討したいと考えている。

キーワード:トレーサビィリティ(Traceability)、地理的表示法、知的財産法、商標法、情報通信法制、マレーシア

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