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社会情報学科・社会情報専攻 研究紀要 「社会科学系研究」

第5号 (2007年8月3日)  目次と概要

(論説)

倉敷市の景観保全のための背景保全対策の先進性について

井上堅太郎・室山貴義・待井健仁・安倍裕樹・羅勝元

要約

  景観保全のための背景保全にはいくつかのタイプがある。第一のタイプは優れた景観を保全する地域(近景)から見える中景・遠景(背景)を保全地域の景観の重要な構成要素として保全措置を講ずるもの、第二のタイプは史跡等として保全されている眺望点からの眺望を確保することを目的とするもの、第三のタイプは総合的な景観の保全のための重要な要素として眺望景観を保全・形成しようとするもの、第四のタイプは中景・遠景の眺望景観そのものを保全しようとするものなどである。
倉敷市は、1990年に条例を制定し、同市が長年にわたり保全に取組んできた伝統的な建造物群からなる景観保全地区の背景を保全する措置をとった。これは1980年代後半から1990年代にかけて、景観保全地区の周辺の地域に相次いだホテルやマンション等の建設計画等が、放置すれば景観保全地区から望見されることとが懸念されたことによる。倉敷市は背景保全措置を採ることとし、条例を制定して対処することとした。第一のタイプの背景保全措置を講じたもので、このタイプの保全としては日本で最も早い事例であった。このタイプの背景保全としては、倉敷市に次いで岡山県が1992年に同県の景観条例の一部を改正して制度を導入し、後楽園、閑谷学校などの背景を保全する措置をとった。1968年に、倉敷市は金沢市とともに日本で最も古い事例である地方自治体による独自の条例で景観保全に取組み始めたが、背景の保全についても、その取組は先駆的なものであった。

(論説)

关于中国传统陶器制作的变化
- 中华人民共和国西双版纳傣族自治州的传统陶器制作村-

徳澤啓一・劉 芳・小林正史・長友朋子

邦文要約

  2007年8月、中華人民共和国雲南省西双版納傣族自治州において、傣泐の4つの村寨を訪問し、伝統的土器づくりの実態調査を行った。中国の経済発展に伴って、伝統的手工業生産も工業化され、ほとんどの村寨では、伝統的土器づくりをすでに停止していた。その中で、退役した土器製作者からそれぞれの村寨で培われてきた伝統的な生産様式を聴取することで、これまで「雲南型」と一括りにされてきた焼成方法に地域差のあることが判明した。曼閣村及び曼斗村のような都市近郊と曼扎村及び曼朗村のような農村では、燃料事情の差異に応じて、地域色のある焼成方法が根付いていた。また、現役の土器製作者の製作技術(デモンストレーションを含む)を参観することで、伝統性から逸脱し、技術的内容も大きく変容した様子を窺い知ることができた。土器製作の生き残りを図るため、現代中国における生活事情に合わせて、生産様式及び技術的内容を最適化させた結果と考えられる。また、西双版納傣族自治州におけるエスニック・ツーリズムの定着によって、伝統的土器は、傣泐の民族表象、すなわち、観光物産として、脚光を浴びている。量的優位性のある製陶工場が参入し、生産主体も取って代わられつつある。こうした背景をもとに、技術的内容及び生産様式等において、さまざまな変容が生じている。供膳及び調理等の日常什器が実用されなくなることで、胎土中、砂が混和されなくなった。傣泐の信仰や伝統的行事で使用される供献仏器類も同様である。また、伝統的土器製作から脱却し、現代化、工業化され、電動轆轤や登り窯で効率化された生産体制に移行する土器製作者、加えて、土器の材質性能の優位性を活かして、現代的器種、すなわち、漬物壺や瓦の生産に進出する土器製作者も現れた。
中国政府及び雲南省政府は、現代化の潮流を歓迎する一方で、伝統文化の保存及び継承に力を入れはじめた。少数民族の固有性、伝統性の喪失は、西双版納傣族自治州の発展を阻害する判断したのである。事実、邊彊観光の進展なくして、西双版納傣族自治州は、更なる経済発展を見込めない。そのため、現役の伝統的土器製作者を「雲南省民間工芸伝承人」等と認定及び指定することで、観光資本としての保全に乗り出した。しかしながら、急激すぎる経済成長とこれに伴う現代化は、担い手である傣泐の伝統的生活様式も変容させつつある。中華鍋や電気窯が浸透することで、粳米を主食とする副食文化が浸透し、炊飯鍋等の伝統的器種を市場から一掃してしまった。また、電気や道路等のインフラ整備が進んだことで、テレビ・冷蔵庫・自動車等が普及し、一見、伝統的と見做せるような生活事情の裏側では、現代化された生活を営むようになっていた。こうした現代化を目の当たりにして、伝統的土器づくりを担うべき後継者も、土器製作者以外の将来を望むようになっている。傣泐の伝統的土器製作の変容を通して、西双版納傣族自治州における民族性及び地域性が急速に失われつつあることをレポートする。

(研究ノート)

シンガポールにおけるサイバー法の紹介

坂部  望

要約

 現実にサイバー法という法律はないが、コンピュータ・ネットワークをコントロールする法律の総称を現代では「サイバー法」あるいは「サイバースペース法」と呼ぶようになった。 今回の論文では、日本に先駆けて、立法化されたシンガポールのサイバー立法を紹介したい。特に数あるうちのなかでも、「コンピュータ不正使用防止法」と「電子取引法」を取り上げることにする。これらの法律は、立法当初は非常に注目を集めた。米国や欧州、日本や香港などからも研究者が訪れ、研究と立法化に拍車をかけた。とりあえず、二法ではあるが、これらの法律の特色を、本稿でとりあげることとする。

(研究ノート)

使用済み携帯電話のリサイクルについて

片山公則・井上堅太郎

要約

 携帯電話は急速に普及し、また、新機能が次々に付与されることから、使用済みとなる台数は年間に4,000万代以上に及ぶと推定される。しかし、通信事業者と携帯電話製造者によって行われている自主的な回収・リサイクル制度によるリサイクル率は低く、また、年々回収率が低下している。現在では20%以下の回収率に留まっている。極めて多くの台数が使用済みとなっており、有用な資源が未回収となっていることから、現状の低回収率を改善する何らかの有効な社会的な対応が必要である。所有者と関係事業者に規制を求める法律に基づくシステムの構築が有効と考えられる。

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